Sonyが手放した高速近接無線「TransferJet」の歴史と今後(2015年時点)
こんにちは。今回もニッチな技術のご紹介をしたいと思います。以前紹介した無線給電の記事は反応が乏しくありませんが、一応張っておきます。
TransferJetとは
Sonyが開発を行った無線通信規格。2008年に規格が一般公開され、2010年から導入製品の販売が開始されました。この規格は「あえて飛ばさない」ことが特徴です。コンソーシアムのHPから規格概要を引用。
- 簡単操作
通信したい機器同士を直接かざすだけで通信が行なえます。
- 安心接続
通信距離が極めて短いためデータ漏洩の可能性が低いです。 それに加え、自分が接続したい機器を予め登録することが可能です。
- 快適転送
高速転送が可能です。 物理層の転送レートは560Mbpsまで対応 最大実効レートで375Mbps。
Wi-Fi・Bluetooth等に比べると、1.ペアリング動作が不要なこと 2.周囲の電波環境に影響を受けない(与えない)こと がメリットとして挙げられます。速度については以下の動画が参考になります。17MB程度のHD動画を転送しているようです。
TransferJetを使ったスマホ間での高速データ通信の様子 - YouTube
TransferJetの歴史
2010~2012年:TransferJetの始まりとSonyの見切り
最初にTransferJet対応(内蔵)の製品を発売したのはSonyだったと記憶しています。
2010年当時想定されていたユースケースは、デジカメで撮影した写真をTransferJetを利用してノートPCに転送するものでした。
ソニー、初のTransferJet対応型などVAIO春モデル -AV Watch
ソニー、フルHD AVCHD/10倍手ブレ補正の「サイバーショット」 -AV Watch
Hands-on With Transfer Jet - YouTube
しかしながら2012年の春を境に、SonyからTransferJet対応製品が発表されなくなります。この要因はおそらく、スマートフォンの登場(想定される転送先端末の変化)とEye-Fiに代表されるWi-Fi対応のSDカードとの競合が発生したためだと考えられます。どのデバイスにも搭載されているWi-Fiには敵いっこないと判断したのでしょう。また当時のSonyのモバイル事業*1は「ソニー・エリクソン」が担っており現在の子会社体制である「ソニーモバイル」になる前だったため、XperiaへのTransferJetの搭載が難しかったことも想像に難くありません。
2013~2015年:代打,東芝
すでに多くの人に忘れ去られていたであろうTransferJetに再びスポットを当てたのは東芝でした。
2013年のCEATECにおいて東芝がスマートフォンでの利用を想定した「Micro USB型のTransferJetアダプタ」を展示し、同年12月から販売が開始されました。今年に入ってからはiPhone対応のアダプタも登場しています。
またdocomoの2015夏モデルであるARROWS NXにTransferJetが内蔵されました。
しかし、なぜ東芝がTransferJetに積極的に取り組み始めたのかはよく分かりません…。
TransferJetの今後
次世代TransferJet
規格が一般公開された2008年当時、TransferJetは「ケーブル接続がいらないのに、USB2.0と同等の速度で通信でき、かつ近づけるだけという手軽な操作」というメリットを十分に押していける環境にあったと考えられます。つまり競合を圧倒していたのです。しかし2008年から製品が登場する2010年までの間に、USB3.0(480Mbps→5Gbps)やIEEE 802.11n(54Mbps→300/600Mbps)など有線・無線の両方で既存規格の高速化が行われ対応製品が続々と登場していきました。
更に追い打ちをかけるように、スマートフォンへのNFCの搭載が始まりました。スマートフォンで容量の多いデータを送受信する場合は、ペアリングをNFCで行いデータの送受信はWi-Fiを使うことでTransfeJetと同様のことが出来てしまいます。速度的にも11ac対応端末であれば、TransferJetと大きくは変わらないでしょう。現在のSonyはNFCによるソリューションを提供しているため今後もTransferJetへの関与は薄いままと思われます。
さてそんなTransferJetの今後ですが、残された道はただ一つ。”圧倒的な高速化”のみです。現在検討されている「次世代TransferJet」では60GHz帯を利用した10Gbpsの通信が可能になるようです。
標準化についてはIEEE802.15で行われており2017年中には完了予定とのことですが、予定通りには進まなそうです。
次世代でも競合はたくさんいる
次世代TransferJetにも競合相手がいます。先日のワイヤレスジャパン2015でNTTが展示した「ミリ波非接触高速転送技術」です。
通信技術には IEEE 802.11ad(WiGig)が採用されています。通信技術も想定するユースケースもTransferJetと丸被りです。しかも IEEE 802.11adは標準化が完了しており、11adをベースにしたWiGigはWi-FiアライアンスのブランドでありWi-Fiとの親和性が高いです。またIntelやQualcommもWiGigに対し積極的に取り組んでいます。詳しくは以下のリンクを参照。
まとめ
- 旬を逃したらアウト。
- 次世代TransferJetにも競合はいる。
- 東芝さんは本気でやるつもりですか?
それでは、また。